東アジア思想・哲学研究教育プログラム
招聘研究者

張 政遠 / cheung chingyuen

経歴
1998 年香港中文大学 文学部 哲学専攻 フランス研究 副専攻 卒業
2000 年香港中文大学 文学研究科 修士課程 哲学専攻分野 修了
2003 年東北大学 文学研究科博士 前期課程 哲学専攻分野 修了
2007 年東北大学 文学研究科博士 後期課程 哲学専攻分野 修了
2007 年~香港中文大学 文学部哲学科 講師

研究テーマ
西田幾多郎と学習院

1.今までの研究: 私は、2000 年から2007 年まで東北大学に留学した。
指導教官の野家啓一教授の元で、西田幾多郎と現象学を研究し、
2007 年に提出した博士論文
「ExPerience , other , Body, Life --on the Phenomenological Philosophy of Nishida Kitaro 」
(経験・他者・身体・生命--西田幾多郎の現象学的哲学をめぐって)
で博士号を取得した。
「西田哲学」がしばしば「京都学派」「仏教思想」「無の哲学」「禪」などと結び付けられており、
あるいは「学派」として取り扱われている。
しかし、「学派」の独断的な偏見によって
西田の哲学における可能性が遮断されてしまう恐れがあると言えよう。
西田の哲学を現象学的に読み直す研究は比較的まだ少ないようにみえるが、
西田の哲学に多くの現象学的なエレメントがあると考えられる。
現象学が西田の哲学を理解するための媒体であるのみならず、
西田の哲学の可能性を開示する重要な手がかりでもあると考えている。
たしかに、西田の哲学には
行為的直観・絶対矛盾的自己同一・弁証法的世界などの用語が錯綜している。
西田の思索の迷路で立往生せず、そこから抜け出すことは決して容易ではなかろう。
しかしながら、西田の哲学は決して哲学ジャーゴンの殿堂ではないと信じている。
西田は、「私はいつまでも一介の坑夫である。礦石を精錬する暇すらもない」と言ったが、
私は西田の哲学を現象学的哲学に研磨し、その真価を問いかけたい。
これまでは、日本国内や海外の学会で西田の現象学についての研究成果を発表してきた。
特に、西田幾多郎の専門研究機関としての西田哲学会では、
第四回(2006 年)と第六回(2008 年)に論文を報告した。
現象学の研究に関しては、日本現象学会で研究発表を行なってきたが、
2008 年11 月には日本現象学の3 0 周年記念シンポジウムとして、
「日本の現象学への問いかけ」というテーマで、
M.S.C.シューバック氏とH.P.リーダーバッハ氏と共に提題した。
2.現在進行中の研究:
2007 年より出身校の香港中文大学に戻り、講師として勤めている。
哲学科の科目として「哲学的人間学」・「日本哲学」を担当し、
また、一般教育の「論理学」・「クリティカルシンキング]・
「中国文化と哲学」・「近代中国文化概論」などの講義を行っている。
現在、主に日本哲学について研究を行っている。
2010 年は次の論文を発表する予定である:

3 月「三木清の技術哲学」(東京大学UTCP )
5 月「クリティカルシンキングと高校教育」(香港中文大学)
「日本哲学のポテンシャル」(日本哲学会・大分大学)
「伝統日本哲学について」(エストニアタリン大学)
6 月未定(東京大学UTCP )
7 月未定(西田哲学会)
11 月「西田幾多郎と現象学」(台湾中山大学)
12 月「『 善の研究』 について」(京都大学)
3.東洋文化研究所で行う研究:
西田幾多郎は、京都学派の創始者として知られている。
しかし、1910年に京都大学文学部の助教授になる以前、
つまり1909 年から一年間ほど、西田は学習院の教授として任命されている。
学習院時代の西田の著作は多く残されていないが、
『善の研究』の主要な考案がすでにこの時期に完成しつつあったと考えられる。
2010年は、『善の研究』刊行百周年となる。
今回の滞在において、『善の研究』の成立に関して研究を行い、
また、学習院大学の酒井潔先生にぜひお会いして、
西田と現象学について議論を探めることを期待している。
さらに、東洋文化研究所と香港中文大学哲学研究室との
合同研究の可能性を積極的に模索していきたい。